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計画研究項目A01:「現在」
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時間順序を作り出す神経メカニズムの解明
- 研究代表者
- 北澤 茂大阪大学 大学院生命機能研究科 教授
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- 連携研究者
- 中野 珠実大阪大学 大学院生命機能研究科 准教授
- 連携研究者
- 高橋 俊光大阪大学 大学院生命機能研究科 助教
- 連携研究者
- 熊野 弘紀大阪大学 大学院生命機能研究科 特任助教
- 連携研究者
- 猿渡 正則大阪大学 大学院医学系研究科 助教
- 連携研究者
- 宇賀 貴紀順天堂大学 医学部 准教授
物理世界の時間の中で、「現在」はただ一点で幅を持たない。一方、われわれが抱く「現在」の意識は、一秒に満たないほど僅かではあるが、幅と流れを持っている。つまり、「こころの現在」は物理学的な「現在」そのものではない。物理世界の直近の入力を糧にして、脳が作り上げた世界の解釈がこころの「現在」なのだ。では脳は、いかにしてこころの「現在」を構築するのだろうか。我々は、「現在」の短い幅の中でも意識することができる時間の順序とその錯覚に注目する。たとえば左手と右手に加えた0.2秒差の信号の順序は手を交差するだけで入れ替わる。また、急速な眼球運動(サッケード)の直前には2つの視覚刺激の順序判断が逆転する。これらの錯覚の原因を、ヒトやサルを対象として心理物理学や神経生理学の様々な手法を用いて調べることで、こころの「現在」で脳が時間順序を構築するメカニズムを解明する。
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こころの時間長・同期・クロックを作り出す認知メカニズムの解明
- 研究代表者
- 村上 郁也東京大学 大学院人文社会系研究科 准教授
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- 研究分担者
- 四本 裕子東京大学 大学院総合文化研究科 准教授
ありありとした現実感をもって我々をとりまいて感じられる空間は、実は脳が紡ぎ出した幻なのだ。それと同じように、出来事 A がどのくらい長く続いたか、出来事 A と出来事 B とはどちらが先だったか、目を閉じて現在までにどれほどの時間が過ぎていったのか、これら鮮明な現実感をもって体験できる意識的時間は、すべて脳の情報処理の産物なのである。本研究では、主観的現在というように大まかにくくれる我々の意識体験の中に占める、数秒以下であると感じられるような心的持続時間や、複数の感覚属性や多感覚の間で同期して感じられる時間関係や、現在という心的時間を刻むクロックの心理的本質について、心理物理学実験や非侵襲脳活動計測実験によって調べる。こころの現在という中を流れる構成概念である時間変数には、心的変数同士の、また外界と心的世界の間のキャリブレーションが介在しているはずだ。その仕組みを解明するのが本研究のゴールである。
計画研究項目A02:「過去」
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記憶による時間創成メカニズムの探索
- 研究代表者
- 池谷 裕二東京大学 大学院薬学系研究科 教授
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- 連携研究者
- 野村 洋東京大学 大学院薬学系研究科 助教
- 連携研究者
- 藤澤 茂義理化学研究所 脳科学総合研究センター チームリーダー
記憶は時間を推進する。この事実は海馬障害患者の症状から理解できる。海馬が正常に機能しないと順行性記憶障害を生じるが、患者は同時に時間失認も示す。つまり、記憶は「こころの時間」の原泉といえる。本研究ではこの観点から以下の検討を行う。(1) リップル波における経験時間の圧縮のメカニズムと時間進行の操作。リップル波は海馬脳波の一種で、経験を長期記憶に変換するプロセスを反映している。どのようにニューロンが選択され活性化されるのか、どのようにして情報が変換されるのか、さらに、リップル波を制御することで内部時計を操作できるかを追求する。(2) 齧歯目における時間概念の探索。エピソード記憶は、ヒトの自己意識の基幹であり、過去へのこころの時間旅行を実現するが、同記憶を支える要素である「いつ」の概念が進化的にどう発生したのかは不明である。本研究では、齧歯目の「いつ」の概念を行動学的に探索する。
計画研究項目A03:「未来」
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計時と予測の神経機構の探究
- 研究代表者
- 田中 真樹北海道大学 大学院医学研究科 教授
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- 連携研究者
- 國松 淳北海道大学 大学院医学研究科 助教
ヒトは未来に思いをはせる。本研究では、その基盤となる計時とタイミング予測の神経機構を2種類の行動課題を訓練したサルを用いて調べる。第一の課題では、一定の時間間隔で現れる視聴覚刺激の不意の欠落を検出させる。これには次に現れる刺激のタイミングを予測し、感覚入力が無いことに対して予測誤差信号を生成する必要があり、大脳小脳ループの関与が予想される。第二の課題では、手がかり刺激から一定時間が経過したことをサルに報告させる。この際、視床や前頭葉内側部から漸増する準備活動が記録されることが知られており、本研究ではその信号源を大脳基底核と小脳で探索し、同部への薬物投与によって行動への因果性と局所回路による時間情報の生成機構を調べる。また、類似の行動課題の成績を小脳変性症などで調査する。このように、計時と予測の脳内機構を調べることで、ヒトが未来を展望する基礎となる心のメカニズムとその病態を明らかにすることを目指す。
計画研究項目A04:「病理・病態」
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ヒトの時間認知機構の解明:健忘症例からの検討
- 研究代表者
- 河村 満昭和大学 医学部 教授
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河村班では、「こころの時間」の病態と治療に関する研究を推進する。 「現在」と「過去」の神経基盤については、アルツハイマー病を対象として、エピソード記憶の障害を主とする健忘の症状と脳の病巣を解析し、「過去」班の仮説の妥当性を検証する。また、てんかん性健忘にも注目する。側頭葉てんかんでは、見当識障害に加えて長期的逆向性健忘や加速度的前向性健忘など、「現在」と「過去」の極めて特異的な障害が認められている。このような「こころの時間の流れ方」への疾患による修飾について、神経基盤に基づいた原因の究明に取り組む。 「未来」については、これから行おうとすることを覚えておく展望記憶に注目する。展望記憶の存在想起は前頭葉、内容想起は側頭葉が司るため、前頭葉機能障害を呈するパーキンソン病や側頭葉機能障害を呈するアルツハイマー病の症候・病巣を比較する。また、「未来」班による計時機能について、臨床での妥当性を検討する。
計画研究項目B01:「言語・哲学」
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時間の言語化
- 研究代表者
- 大津 由紀雄明海大学 外国語学部 教授
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- 研究分担者
- 西山 佑司慶應義塾大学 言語文化研究所 名誉教授
- 研究分担者
- 今西 典子東京大学 大学院人文社会系研究科 教授
- 研究分担者
- 飯田 隆日本大学 文理学部 教授
- 研究分担者
- 小町 将之静岡大学 人文社会科学部 准教授
- 研究分担者
- 嶋田 珠巳明海大学 外国語学部 准教授
言語によって時間が表現されるとき、それを「現在・過去・未来」という単純な図式で捉えるのは難しい。こうした「時間の言語化」を理解するには、時制や相などの文法的仕組みを内在する「言語モジュール」だけでなく、「発話解釈能力」などの非言語的モジュールとの相互作用も考慮しなくてはいけない。本計画班はこのような認識のもと、「ヒトが時間概念をどのように扱うか」という問いに近づく手段として、以下の研究目標を掲げる。
- (1) 言語の普遍性と多様性の観点から、時間の言語化に関わる言語/非言語モジュール群の性質を理解する。
- (2) 幼児を対象とする発話調査および実験を通じて、時間の言語化に関わる言語/非言語モジュール群の発達過程に迫る。
- (3) 神経学的な成果と照らし合わせることによって、認知システムと神経システムの関係を哲学的に検討する。
計画研究項目C01:「動物の時間」
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類人猿の心的時間旅行
- 研究代表者
- 平田 聡京都大学 野生動物研究センター 教授
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- 連携研究者
- 足立 幾磨京都大学 霊長類研究所 助教
- 連携研究者
- 森村 成樹京都大学 野生動物研究センター 特定准教授
- 連携研究者
- 山本 真也神戸大学 大学院国際文化学研究科 准教授
- 連携研究者
- 狩野 文浩京都大学 霊長類研究所 特定助教
- 連携研究者
- 山梨 裕美京都大学 野生動物研究センター 特定助教
われわれ人間は、はるか昔のことに思いをはせ、遠い将来のことを想像することができる。つまり、心の中で、過去から未来まで時間を移動することができる。近年、こうしたことについて、「心的時間旅行(Mental Time Travel)」という造語のもと盛んに議論がなされるようになってきた。一部の研究者は、心的時間旅行の能力はヒトに特有であり、ヒト以外の動物には備わっていないと主張する。しかし、ヒト以外の動物を対象にした実証的な研究は乏しく、こうした主張は推測の域を出ない。そこで、ヒトに近縁な生物であるチンパンジー、ボノボ、オランウータンの類人猿種を対象に、かれらの時間感覚について調べる実験的な研究を多角的に実施する。類人猿のエピソード様記憶や将来計画行動を調べることを通じて、心的時間旅行の能力の進化的基盤を明らかにする。さらに、アイトラッカーやタッチパネルを使った認知課題などによって、類人猿の「こころの時間」の特徴を探る。